column for the newspaper_3

夫の祖母の中振袖(婚礼用)。留袖に仕立て直し義母が着用。
 
山陽新聞夕刊『一日一題』連載第3回(全7回)
2015年10月26日

13年に始めた『たまログ-玉島地域写真デジタルアーカイブ化プロジェクト』は、倉敷市玉島地区の景色や暮らしを記録した新旧の写真を収集、デジタル化して未来に活かそうという活動だ。

家庭のアルバムに残る古い写真のデータ収集とともに、その当時の話もインタビューしている。
突然だが、私の趣味は裁縫だ。それも着物を縫っている。反物を一から縫うこともあるが、実家の母や祖母から譲り受けた着物を直すことが多い。以前、曾祖母が縫ったと思われるウールの着物があった。サイズを直そうと解いたところ、それはもう大きな縫い目でザクザクと縫われていた。それを見て、ただ「家族のために」と言う気持ちだなぁと、会ったこともない曾ばあちゃんに思いを馳せた。家庭の主婦が、家族の着る物をこしらえる。皆が寝静まった夜にでも、独り無心で針をすすめたのだろうか。子や孫が日々健やかであれと言う、願いとも祈りともつかないひっそりとした思いが、普段着の一枚に込められている。遠く、昔からの手紙を受け取ったようで、温かな気持ちになった。
『たまログ』の活動は、写真を媒体としてそんな形のないメッセージを一つずつ拾い集めているのかもしれない。古い写真をじっと見ていると、生まれてもいない時代の景色なのに、懐かしさが胸に溢れる。何気ない人々の表情に、ほっと安堵の思いに包まれる。着物も写真も、そして家も、バトンのようなものだと私は思う。ただただ健やかに生きてほしいという、当たり前だからこそ貴重な、無事の日常を願うメッセージが託された、未来へのバトン。手から手へ、いま私たちに向けて差し伸べられたバトンを活動を通して確かにつないでいきたい。