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タイトルの「たまずさ(玉梓)」は手紙や消息をあらわす古語。大切な友人が営むウェブ雑貨店が発信していたオウンドメディアに書き下ろした、いくつかの文章を、ここに転載する。(※ウェブサイトは2025年にclose)友人が一つ一つ吟味してオンラインで販売していたのは、岡山県の風土の中で生まれた手仕事の品々だった。作品と言えるそれらに、そのもの以上の言葉など、本当は必要なかったのかもしれない。そう思いながらただ、そのものの存在へのラブレターのつもりで、私は記事を書いた。2022年、新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行する前の年の、春から秋にかけての記録とも言える。

吹きガラスの蚊やりのための物語 2022年7月
『空想たましま世界:平成生まれの彩乃さん』


蚊も登って来ない高層フロアで、冷房でつめたくなった肩をさすって「もう、夏かー」と、ため息と一緒に小さく言葉を吐き出す。声が出にくい。
出社前に淹れてきたお茶を一口飲んで、タンブラーの蓋を閉めながら、このあいだ久しぶりに行った古民家カフェの縁側席、良かったなとスマホを見返す。

”日常にあったはずの縁側が暮らしから遠ざかっても、ドラマのワンシーンや古民家カフェで見かけると、日向に面したその場所を何となく懐かしいと感じてしまうのです。蚊取り線香の煙がゆっくりと細くたゆたっていて、ヒグラシの声が消え入る夏の夕方。”
知り合いのSNSに投稿されていた店だ。
実家に縁側なんてものはなかったし、今住んでいるアパートのベランダは、室外機で余計にせまくて洗濯物を干すのがやっと。でも確かに、縁側に敷かれた薄い座布団にペタンと座ると、どうしようもない懐かしさがあった。

そう言えば、広くて長い縁側と朝顔の鉢植えがいっぱい出てくるアニメ、なんだっけ。
ぐるぐると首を回していると、ふと、蚊取り線香のにおいが鼻をかすめた気がした。
今年はお盆休み、取れるのかな。


※『空想たましま世界』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は、実在のものとは関係ありません。