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 タイトルの「たまずさ(玉梓)」は手紙や消息をあらわす古語。大切な友人が営むウェブ雑貨店が発信していたオウンドメディアに書き下ろした、いくつかの文章を、ここに転載する。(※ウェブサイトは2025年にclose)友人が一つ一つ吟味してオンラインで販売していたのは、岡山県の風土の中で生まれた手仕事の品々だった。作品と言えるそれらに、そのもの以上の言葉など、本当は必要なかったのかもしれない。そう思いながらただ、そのものの存在へのラブレターのつもりで、私は記事を書いた。2022年、新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行する前の年の、春から秋にかけての記録とも言える。


「彫金のイヤリングのための詩」2022年8月


日焼け防止のフル装備をして
盆休みにひとり、地元の岩山に登る
山といっても遊歩道が整備された
子供のころから慣れ親しんだ場所だ

山道を一歩入ると、緑の世界
アスファルトの敷かれた道が
だんだん遠のくにつれて
身体が軽くなるような気がする
いつも手放せないでいる
ノイズキャンセリングイヤホンも
ここでは必要がない

あっという間にてっぺんに着いて
帽子、首に巻いてきたタオル、アームカバーに手袋、
アウトドアサンダル、ぜんぶ外して脇に置く
世界から、自分を守るフル装備
世界と自分を遮断するフル装備

ゴロンとあおむけに寝転ぶと
自分から自分が、蒸発していくよう
刷毛で引かれたような薄雲が、
上空でみるみる姿を変える
なにもかも宙に放たれて、
自分もあおいろだけになる
目の端をトンボがすばやく飛び去って、
からっぽになった自分は満ちる

「Becoming Blue」

Armored against the sun’s fierce gaze,
I ascend the rocky hill alone,
a childhood haunt,
its trails now tamed and paved—
a quiet pilgrimage during Obon.

One step into the forest, and the world turns green.
The asphalt fades like a forgotten thought,
and with each breath,
my body feels lighter,
as if the weight of noise and need
slips quietly from my shoulders.
Noise-canceling earbuds have no place here.

Soon, I reach the summit.
Hat, towel, gloves, sleeves, sandals—
each piece shed and laid aside,
my armor against the world,
my barrier between self and sky.

I lie down on my back.
It feels like something inside me is slowly fading away.
Thin clouds, like strokes of a brush,
shift shape quietly above.
The sky opens up,
and I feel like I’m part of it.
A dragonfly darts past the edge of my vision,
and in that moment,
the emptiness inside me begins to fill.