tamazusa 02

 

タイトルの「たまずさ(玉梓)」は手紙や消息をあらわす古語。大切な友人が営むウェブ雑貨店が発信していたオウンドメディアに書き下ろしたいくつかの文章を、ここに転載する。(※ウェブサイトは2025年にclose)友人が一つ一つ吟味してオンラインで販売していたのは、岡山県の風土の中で生まれた手仕事の品々だった。作品と言えるそれらに、そのもの以上の言葉など、本当は必要なかったのかもしれない。そう思いながらただ、そのものの存在へのラブレターのつもりで、私は記事を書いた。2022年、新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行する前の年の、春から秋にかけての記録とも言える。



「陶の花器のための詩」2022年5月

八十八夜が過ぎた
立春からゆびおり数えて、いよいよ種まきの時期になる
かたく乾いた種を水に浸けると
温んだ春の水をゆっくり吸い込んでいく
種の中のでん粉が分解される
糖がエネルギーになる
新しい細胞が生まれる
呼吸する!

種はその中にこれから形作られるすべてを持っている
葉も、茎も、根も、花も、実も、ぜんぶ持っている
殻がやぶれた時には、
白くか細い根を引きずって、芽の姿でそこにある
種は空っぽになって、殻の形さえ、もう見えない
黒い土と青い空のあいだで、葉が茂り、茎が伸びて、花が咲く
太陽のひかりで葉が光合成する
糖が生成される
でん粉が蓄積される
全力を尽くして実る!

そして、すべてをたずさえてまた種になる