ギャラリー遊美工房発行「遊美工房通信vol.39」取材コラム
ふだん園児たちの発表会などで使われている舞台には『無事』という掛軸がかかり、蕾を緩めたばかりの椿の花が一輪活けられている。現在、地域の幼稚園2カ所で茶道プログラムを担当してもらっているのは玉島の茶道具店、器楽堂老舗の器楽堂康子さんとゆう子さん母娘だ。しつらえの一つ一つに、この時間に向き合うお2人の優しさと、子供だからとあなどらない凛々しさが表れており、見学する私も身の引き締まる思いがする。ぬいだ上靴を自分で揃え、ゴザと赤い毛氈がひかれていつもとは違う部屋の様子に少し緊張している園児たち。みんな正座したところで小さな茶会が始まった。
懐紙に載せられた人気のキャラクターの顔をかたどった和菓子は、同じく玉島の老舗菓子司松涛園のご主人が子供たちのために作った特注品だ。ひとりずつ受け取ると、じっと見てはとなりにいる友だち同士で小さく笑いながら、行儀よく食べている。いよいよ抹茶をたてる順番が回ってくると、園児たちは二人一組で向い合い、それぞれ相手のために茶をたてることになる。この日のために自分で作った茶碗だ。1か月前、前回のプログラムで園児たちは作陶を体験している。指導と窯での仕上げをお願いしているのは陶芸家の岡島光則さんだ。出来上がった茶碗を届けてくれた岡島さんも少しばかり心配そうに見守っている。「目の前のお友だちのためにお抹茶をたてましょう」と声かかかると、小さな手を茶碗に添え、実にそれらしい顔つきで神妙に茶筅を振る子供たちの姿は愛らしくも真剣だ。
一口飲めば「にがーい!」と年相応な笑顔を見せてはしゃぐ園児らだが、差し出された一服を前に手をついて礼をする瞬間の、くすぐったそうな、けれど満ち足りたような様子を見ると、何か感じるものがあるのかもしれないと思う。正座でしびれた足、お菓子の甘さ、自分で作った茶碗の手触り、友だちから渡される温かいお茶の味。まさに『一期一会』が凝縮された時間だった。
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幼稚園に良い音楽と美術をお届けするプログラム
-先輩から後輩へのプレゼント-茶道体験
2014年2月18日@玉島幼稚園